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自律自走コミュニティの育て方 魔法のフレームワーク「5 VALUE」
2025年11月27日

はじめに
オウンドコミュニティを成功させ、継続的に価値を生み出していくためには、場当たり的な企画ではなく、成長を段階的に捉えるフレームワークが必要です。それが、Vision(目的を持つ)/Connect(つながる)/Interact(交流する)/Share(共有する)/Empathy(共感する)という5つのプロセスで構成されたフレームワーク 「5 VALUE」 です。
コミュニティの主役は、プラットフォームという「箱」ではありません。共通の目的や価値観を共有する「人」の集まり=メンバー一人ひとりです。企業や運営側の役割は、メンバーが安心して交流できる環境と仕組みを整え、運営に依存しない「自律自走するコミュニティ」を実現することにあります。
まとめ
- コミュニティの成長は、「Vision / Connect / Interact / Share / Empathy」からなる5 VALUEを循環させながら、メンバーの自分ごと化を深めていくプロセスである。
- 運営は指導者ではなく裏方としてのスタンスを貫き、ルール設計や心理的安全性の高い環境づくりに注力することで、メンバーが自律的に活動できる土台を整えることが重要。
- 初期フェーズでは、「価値を発信する側1割」と「情報を受け取る側9割」というバランスでコアメンバーを構成し、発信者がリーダーへと育っていく仕組みを意図的にデザインする。
- 協働プロジェクトでは、金銭報酬だけに頼らず、称号・発言権・参加権など「リスペクトの証」を可視化する設計が、メンバーの貢献意欲と参加の継続性を高める鍵となる。
オウンドコミュニティの成長プロセスを整理したのが「5 VALUE」です。これは、メンバーがコミュニティの目的や課題を自分ごととして捉え、主体的に行動するようになるまでを、Vision(目的を持つ)→Connect(つながる)→Interact(交流する)→Share(共有する)→Empathy(共感する)という5つのフェーズで捉えたフレームワークです。
メンバーがこのプロセスを通じて自分ごと化すると、運営からの一方通行の発信に頼らずとも、メンバー同士の助け合いや共創が自然発生し、「続くコミュニティ」をつくりやすくなります。その結果、運営コストやモチベーション管理の負荷は下がり、継続的なインサイト獲得や共創プロジェクトの創出といったビジネス面でのメリットも生まれます。
とはいえ、「概念としては理解できるが、実務にどう落とし込めばいいかが難しい」というのが多くの担当者の本音です。そこで本章では、5 VALUEをさらに各フェーズ×5ステップの「5×5=25ステップ」に分解し、抽象論ではなく「次に何をするか」が見える運営のガイドとして整理しています。
たとえば Vision フェーズの中だけでも、「Vision / Vision(目的だけを徹底的に考える)」「Vision / Connect(目的とつながりを設計する)」「Vision / Interact(交流を通じて意志を確かめる)」といった具合に、段階的な深まりがあります。

Visionフェーズのゴールは、メンバーが本気で向き合える共通目的をつくることです。売上やKPIといった短期的成果ではなく、どんな感情が生まれていてほしいか、何に共感して集まっているのか、この場がどんな「意義」を持つのかを言語化します。さらに3年後の理想的なコミュニティ像を、すでに実現したかのようなプレスリリース形式で描き切ることで、運営側の認識を整えます。
Connectフェーズの目的は、メンバーとつながり、新しい発見を生むことです。重視すべきは「人数」ではなく「信頼できるコア」。表面的な意見ではなく、本音や潜在ニーズ、コミュニティに期待される本当の役割をヒアリングで掘り下げます。そのうえで、「受信者9割:発信者1割」という初期メンバー構成を設計し、少数の発信者と運営が場をリードしながら、受信者が徐々に発信側へステップアップできる導線をつくります。
Interactフェーズでは、メンバーを「見ているだけの観覧者」から「関わる参加者」へと切り替えていきます。挨拶やリアクションを積極的に行うコミュニティリーダーを配置し、投稿やコメントの起点となる存在を意図的につくります。さらに、つながった日数や初投稿からの経過時間、象徴的なエピソードなどをマイルストーンとして「見える化」し、「ここにいると変化がある」「ここに関わってよかった」という実感を積み重ねます。
Shareフェーズでは、交流の中で生まれた価値や経験をコミュニティ全体へ広げる仕組みを設計します。情報やノウハウだけでなく、「課題」「悩み」「気持ち」も共有の対象と捉え、セミナーやスキルシェアの場を通じて「持っているものを共有しあう関係性」を育てます。そこで生まれた感謝のメッセージや支え合いのエピソードを可視化し、「ありがとう」が循環する共感のループをつくることが、持続的な協力関係の土台になります。
Empathyフェーズのゴールは、共感にもとづく協働を再現可能な「仕組み」として定着させることです。リーダーやアクティブメンバーを単なるお手伝いではなく「ともにつくるパートナー」として迎え入れ、バッジや称号、意思決定への参加権、企画への優先参加枠など、リスペクトの証として貢献を位置づけます。

これまでの活動を単に振り返るのではなく、成果をKPIや参加率といった「数字」と、メンバーのストーリーや心の変化といった「物語」の両面から可視化し、「何がうまくいったのか」「どんな瞬間に共感や一体感が生まれたのか」「次はどんな挑戦をしたいか」をメンバーとともに言語化したものが「Vision Ver.2」として新たなフェーズとして生まれるのです。このプロセスを通じて、コミュニティ運営の中で培われた感覚的なノウハウ(暗黙知)は、誰もが共有・再現できるフレームワーク(形式知)へと変わっていきます。こうしたサイクルを重ねることで、「運営が回しているコミュニティ」から、「メンバー自身が設計し、走らせ続けるコミュニティ」へと進化し、自律自走に近づいていくのです。
出典: 『オウンドコミュニティ』(LIDDELL Inc.) 掲載先: COMMUDA
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